１０年前のこと。

今から１０年前，私は，大学４年生で，東北サンプリングに行った。
青森から岩手にかけて海岸沿いをぐるーりとドライブして，海水を採取しつつ，
釜石市の漁港にある海洋バイオ研究所に訪問して，花巻から新幹線で帰るというコース。
１２月の寒い時期，雨がふったり大変だったけど，立ち上げたばかりの研究室，
とあるプロジェクトで，採取とその後の作業で，予算１０００万円くれるというのだから，みんなで頑張った。
このことがあって，顕微鏡が２台しかなかった研究室に，クリーンベンチが届き，温度調節のできる培養庫を買うことができた。

青森で食べたウニイカ丼，仙台で食べた牛タン，ラーメン，釜石で食べた肝刺し，美味しかった思い出は今も鮮明に・・・。
海洋バイオ研は，研究室のボスが赴任する直前まで所属していたところで，
技官さんたちや，先生方があたたかく迎えて下さった。
地元の女性が多くて，元気でたのしそうで，その夜の飲み会は，大宴会！
ボスの話では，釜石のひとたちは，飲み会っていうと朝までが普通だとか。
居酒屋とカラオケをハシゴして，２時まで宴会。
さぁ，お開きっていうときに，みんなが口々に「代行頼んで−」とお店の人にお願いする。
「代行？」タクシー会社などに運転手を派遣してもらって，自分の車で帰ること，このとき初めて知った。
「夏になったら，イカが美味しいから，またおいで」と言われたまま，１０年。

人生で一度だけ体験した東北がこんなことになるなんて。
とりあえず，研究所のひとたちは奇跡的に皆無事と聞いた。
６０年前の津波を体験した事務員さんが，地震の揺れを感じた時点で，
全員で高いところへ避難しようと言ったことが幸いしたらしい。
でも，ご家族や，親戚はまだ安否不明の人も。
研究所の建物も，津波でさらわれてしまったと聞く。
今すぐになにか，できないけれど，
これからの復興に少しでも協力することができたら，と切に願っています。